
「香りの残る艶やかな余韻」
フランスの香水職人の言葉です。
フランス音楽について連載をもたせていただくという幸せな機会に恵まれたとき、ふとこの味わいあるニュアンスが漂いました。
香りから、色から、音から思い出す、なにかとても大切なもの―
個々のなかで起こる〝感覚の出会い〞は形に収まりようのないもので、それは誰もがもつ豊かさだと思っています。
私は4年ほどパリに住みました。
多人種の交錯する北部の下町で、一日中賑やかで激しくて・・・随分と鍛えられました。
ビックリの連続を、どうにか面白がる。そうするうちに、同じ日常などないことを大きく感じるようになりました。
ひと時ひと時、一音一音、ひと言ひと言に、いかに感動することができるか―
そこに人生の彩りや、その人の歩んできた奥行きが表れるように思います。
人として、他者であったり歴史であったり、温度を感じる大切さを学びました。
世界でこれほどビルに埋め尽くされた地はないのではと思える日本ですが、八王子には自然があります。
木洩れ陽にはドビュッシーが、風と鳥の声にはメシアンが、夜空の鋭い星にはラヴェルが、よく似合う。
自然や鋭敏な心模様を描くフランス音楽は、どこか和歌の風情とも似ています。
次回はまず『ドビュッシーと文学』を軸に、響き合う五感の愉しみを綴りたいと思います。
音楽も香水のように纏いたい。こんな素敵なサティの言葉もあります。
「生活は、音楽と関係のないときに音楽を必要とする。〝家具の音楽〞は名をもたない」。
聴かれることよりも、人々を心地よくする家具のように在ること。
皆さん、今日は『ジムノペディ』をかけておやすみなさい。