Vol.4「シャブリエと色彩」

音がカラフルに舞い、立体的に飛び込んでくる―この感覚は何だろう。
初めてそう思ったのが、中学生のときに出会ったエマニュエル・シャブリエの『スケルツォ・ワルツ』というピアノ作品でした。
以降、いつ聴いてもその心躍る感覚は変わることなく、いまでは私の愛奏曲になりました。
この作品は十曲から成る《絵画風小品》に収められています。
シャブリエは、マネやルノワールらの絵画作品を所蔵し支援するほどの美術愛好家で、
いわゆるバティニョール派と呼ばれる美術家たちとも交流を持ちました。
私はバティニョール公園の近くに住んでいたので、まるで歴史との散歩道…
彼らが集った場にはマラルメやゾラなど、社会的にも大きな影響力を持つようになる文筆家も出入りしました。
シャブリエは内務省に勤務する役人でもありました。
四十歳近くになったころ「音楽に生きたい」と涙ながらに退職します。
そうしてその数年後、画期的な― 音楽史上のひとつの事件と言っても良いほどの―『エスパーニャ』が生まれます。
爆発的な人気を収め、のちのドビュッシーやラヴェル、サティやプーランク、ストラヴィンスキーらの音楽性にまで影響を与えました。
「ある日、シャブリエが家に来てエスパーニャを嵐のように弾いていったの。そしたらピアノの弦がね、何本も切れてしまったのよ」と、ルノワール夫人。
皆さん、エスパーニャと色鉛筆のご準備を。
心に飛び込むまま色を重ねて、あら不思議。幸せな模様が、浮かぶでしょう?
文:深貝理紗子(ピアニスト)