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12/7まで開催中の八王子芸術祭では、最終週の12/6(土)~12/7(日)に、地域に根付く音の創造性と、演劇の新しい楽しみを味わえる2つのプログラムが展開されます。ひとつは、地域の素材で創作された楽器による、八王子の“音”を五感で楽しめるコンサート「Kinonオーケストラ Vol.1」(12/7)。そしてもうひとつは、劇場とは異なる空間で、まだ誰も知らない新作戯曲の生まれる瞬間に立ち会う「新作初読リーディング」(12/6・7)です。土地の素材や人々の声を通して、日常の風景や記憶をやわらかく照らし出す、大人も子供も楽しめる創造の旅。より一層深くお楽しみいただくために、各プロジェクトを監修するお2人に、たっぷりとお話を伺いました。
八王子の音が織りなす特別な響き
『Kinonオーケストラ Vol.1』
パーカッショニスト・作曲家 永井朋生さん
使われなくなった八王子の木材や建材が、パーカッショニスト永井朋生さんの手によって命を吹き込まれ、唯一無二の“楽器”へと姿を変える「音響彫刻Kinon」プロジェクト。地域との対話から生まれる、この特別な楽器たちが、12月7日に「Kinonオーケストラ Vol.1」として集結します。八王子の「音」に懸ける想いやコンサートの魅力について永井朋生さんに伺いました。

永井朋生 Tomoo Nagai 打楽器奏者・作曲家
東京芸術大学大学院修了。世界各地で出会った素材から音を見つけ、自ら楽器から制作。独自のコンセプトに基づいて、ソロやバンドでの国内外ライブ活動および、TV、映画のサントラ制作をする。三保松原文化創造センター「オトノキ」、南方熊楠記念館、「南方熊楠音楽」、JRきのくに線の31駅のホームの音楽「Sounds for 31 Stations」、天王洲アイルセントラルタワービル内の音楽等の公共施設空間の音のデザインも多く手がける。
―音響彫刻「Kinon」の旅プロジェクトについて教えてください
永井朋生(以下、永井):「Kinon」は、八王子芸術祭から生まれた八王子で集めた木材や地域の素材を使って楽器を制作し、それらを用いて音楽を創造していく10年間の音の旅プロジェクトです。前回の芸術祭では、対象エリアである高尾・恩方地域で伐採された木材で楽器を制作し演奏しました。今回はエリアが変わり、中野・大和田・小宮・石川エリアのテーマである絹糸や鉄、廃材などを加えて、八王子の新しい音を探求し楽器を創り出して奏でます。
―八王子の素材への想いやこだわりを教えてください
永井: これまでライフワークとして世界中の土地の素材を使って楽器を創って演奏することをやってきました。私自身、八王子に40年以上在住し、特に新型コロナ以降、より地元に目が向くようになりました。八王子の素材、つまり「歩ける範囲内」にあるもので、これだけの豊かな素材があり、これだけの音楽ができるということを示してみたかった。「音の地産地消」ですね。ピアノの木材がヨーロッパから来たり、音楽や楽器の世界もボーダレス化が進む現代で、あえて地域を限定することで、この地域にしかない音や豊かなものに囲まれているということの、ひとつの証明になればという思いがあります。
―プロジェクトの中にある「音のあしあと」という取り組みはどんなものですか?
永井: 「音のあしあと」は、Kinonプロジェクトで生まれた音を八王子の公共の空間に刻んでいく、地域にあった素材の音の記憶を残す活動です。具体的には高尾駅前の宿泊施設「タカオネ」では公園整備で伐採されたケヤキの音を環境音楽として流したり、ある小学校では伐採された桜の木で木琴を作って6年生と一緒に卒業式で演奏することを目指しています。その他にもいちょうホールの開始のベル音をイチョウの木と改修で取り替えられた鍵でデザインするといった計画も進んでいます。こうした活動を通じて、関わった人々や住民の方々の記憶に残り、10年後、20年後と将来に受け継がれていくことを目指しています。

―永井さんの音楽活動のルーツについて聞かせてください
永井: 最初はジャズドラマーとして活動を始め、20代前半はジャズやポップス、ロックなど、ドラムの活動をずっと続けていました。実は、父がデザイナー、弟と妹が金属加工の職人、そして僕自身も美大で鋳物の勉強をしていたという背景があり、ゼロから何かを創り出し、最後まで完結するという一連のクリエイティブの経験がありました。だけど、ドラムだと「誰かが書いてきた曲をみんなで演奏してみんなで仕上げる」プロセスになり、どこかで「一人でやりたい」という気持ちが捨てきれなかったんです。
そこで、30代半ば頃にドラムを一度置き、音が出るものを使って音楽を作る、いわば「総合格闘家」(笑)のような感覚で、パーカッショニストとして活動を始めました。ドラムという道を捨てて新しい道を探すことには、多少の痛みやコンプレックスも伴いましたが、いまはこの素材を使った創作活動こそが「本来の自分により近くなってきている」という実感があります。誰かにやらされているという気持ちもストレスもなく、この活動を支えてくれるチームに心から感謝しています。
―そのステージが間もなく開催ですね。最後に、公演に向けてメッセージをお願いします。
永井: 今回、ストリングラフィ演奏家の鈴木モモさんと、ボーカリストの行川さをりさんを迎えた構成でお届けします。お二人ともご自身のスペシャルなパートを越えて音楽を創造する魅力あふれるアーティストです。ぜひ、楽しみにしてください。
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生まれる瞬間に立ち会う、スリルと技の空間
『新作初読リーディング』
劇団「屋根裏ハイツ」主宰、劇作家・演出家 中村大地さん
12月6日・7日に開催される「新作初読リーディング」は、従来の舞台上演とは一線を画す、上映前のテキストの面白さを体験できるプログラムです。劇作家と俳優はもちろん、観客と作品が「手探り」に対話する場を生み出すこの試みについて、劇作家・演出家の中村大地さんに伺いました。

中村大地 NAKAMURA Daichi 作家・演出家
1991年、東京都生まれ。宮城県仙台市で演劇を始め、現在は東京に在住。屋根裏ハイツでは全ての作品の作・演出を務める。外部へのテキスト提供・演出も多数 。
2019年『ここは出口ではない』で第2回人間座「田畑実戯曲賞」を受賞、「利賀演劇人コンクール2019」で優秀演出家賞一席となる。2024年、第14回せんがわ劇場演劇コンクールにて『未来が立ってる』で劇作家賞受賞。
一般社団法人NOOKのメンバーとしても活動。
https://yaneuraheights.net/
―今回のリーディング作品の概要について教えてください
中村大地(以降、中村): ひと言でいえば、「稽古なし(ノーリハーサル)での上演」です。俳優たちが当日初めて戯曲を読み上げるという、スリリングな形式に挑戦します。演出家としての個人的な感覚なんですが、「もしかしたら、本読みの初日が一番面白いのではないか」という思いがあるんです。作品を完成させていくということは、その過程でありえたかもしれないいろんな可能性を「捨てていく」ことでもあります。初日の本読みにはその手前の、そこでしかないワクワク感があって、作品のポテンシャルが現れる瞬間なんです。それを“整えないままに”観客と共有したら面白いんじゃないか?というアイディアで、今回の企画があります。
―中でも一番の見どころについて聞かせてください
中村:今回は私を含め3人の作家が新作戯曲を執筆しています。執筆というのは通常、孤独な作業になりますが、この企画では月に一度3人が途中経過を共有しながら、ああだこうだとおしゃべりをして創作を進めてきました。戯曲を読むのは、20代前半から50代まで幅広い世代の8人の俳優です。例えば、劇団 青年団(平田オリザ氏 主宰)の太田宏さんや、今最も注目されている若手劇団のひとつである「南極」の端栞里さんなど、普段はなかなか共演することのない個性的な面々が集いました。この形式だからこそ生まれる「俳優の異種格闘技」感は魅力の一つです。
稽古なしだと「クオリティが低いのでは?」と懸念されるかもしれませんが、かえって俳優のすごみが体感できる場なのではないかと思います。観客が普段見ることのできない、台本に書かれた文字をその場で「立ち上げる」俳優たちの細かな技術を味わうライブ感を楽しんでほしいです。「本編も好きだけど、メイキング映像もめっちゃ好き」みたいな方にもおすすめの時間かなと思ってます。
― 上演会場も「家庭科室」と少し変わっていますね
中村:劇場特有の暗さや緊張感が苦手な人もいると思うんです。家庭科室は、なんだか懐かしい感じもあるし、窓から光が差し込むし、外からの音も色々する。そんな環境で、観客がリラックスして見てもらえたらなと思っています。
上演の際には、戯曲を字幕で投影するか、台本を配布するかして、観客もそれを見ながら上演に立ち会ってもらおうと考えています。文字の戯曲と、それをどうやって俳優が立ち上げるのかと。物語をシンプルに楽しむのに加えてそういった要素があることで、楽しむポイントが増え、かえって親しみやすいのではないかと思っています。














